K氏もご存知のように、私は家にいるほとんどの時間に音楽をかけています。BGMに左右されて生きていると言っても、過言ではないかもしれません。
それも幾分、強迫観念めいておりまして、その音楽ソフトが終わらない内はその場を離れる事が出来ません。いや、もっと正確に言うとCDの場合はポーズボタンを押すなりして、その場を “一応は” 離れる事が出来るようになりました。問題なのは、LP・12インチシングル・7インチシングル等、つまりアナログレコードの場合なのです。
私は1984年に上京してから2000年まで、いわゆるミニコンポというヤツを使用していました。その付属のレコードプレイヤーは今から思うとオモチャみたいな物でしたが、オートリターンという機能が付いていました。つまり、レコード盤の最終溝の無音部にレコード針が来ると自動的にアームが戻り、ターンテーブルの回転も止るという機能です。いいかげんな作りだったので当然何回も故障しましたが、その都度修理して、きっかり16年間使用していました。
そのミニコンポを使っているうちは良かったのです。今思えばその頃は “その音楽ソフトが終わらない内は、その場を離れる事が出来ません” という事も無かったのですが。
2000年にテクニクスSL-1200MK3Dというレコードプレイヤーに買い替えてから、段々と “その音楽ソフトが終わらない内は、その場を離れる事が出来ません” というカラダになっていってしまいました。SL-1200MK3Dに限らず割とガッチリとしたレコードプレイヤーには、このオートリターン機能は付帯しておりません。当然、例外はありますが。
プッ・・プッ・・プッ・・プッ・・プッ・・プッ・・プッ・・プッ・・・・
一定の周期でスピーカーから微かに聞こえる、アナログ盤特有の心地良いノイズ・・・・
え〜と、これって一体何の音だったっけ?・・・・
SL-1200MK3Dに買い替えてしばらくは「ミニコンポのチャチなレコードプレイヤーとは、流石に音が違うな!」と、連日浴びる程、アナログ盤を聞きまくり。やがて酔っぱらってレコードを聴いている内に眠ってしまい、ハッ!と気付くと10時間近くも!レコードの最終溝をトレスさせる!という事態を繰り返し。流石に!これは!レコード針を無駄に消耗させているのでは!と青ざめました。今にして思えばミニコンポ使用時代は、レコードを聞きながら眠ってしまった事もあんまり無かったと思います。
余談なのですがその “心地よく眠ってしまったレコード” というのは、一般的に言う “心地の良い音楽” ではありませんでした。どちらかと言うと——ひたすらうるさいノイズ/インダストリアル系のロック、単調で喧しいハード・コア・パンク、けばけばしくゴージャスなディスコ・ミュージック、仰々しい演歌やムード・コーラスや歌謡曲——といった感じの、一般的にはあまり “心地の良くない音楽” でした。なんでかわかりませんが。
優秀録音!とオビにデカ書きしたクリーンな現代音楽、
わざとか!と言いたくなるほど退屈な環境音楽やニュー・エイジ・ミュージック、
頭がキン!となるほどやみくもに壮大すぎるプログレッシブ・ロック、
いかにも!なアンビエンス・テクノ、等は不思議と眠くなりませんでした。なんでかわかりませんが。
やがて、SL-1200MK3Dのアナログ盤レコード・ライフにも慣れて来て、レコード針が最終溝をトレスし終わったのを確認したらアームを上げるという行為が習慣付いてきたのですが。。。
問題は、いったん聴き始めたレコードを途中で中断する事にすごく抵抗が出て来たのです。レコードの途中でも針を上げれば良いだけの話しなのですが、なぜだか積極的にそうする気になれないのです。そりゃタマには、そうせざるを得ない時もあります。その時は断腸の思いで針を上げますが、それでもごく×50、タマにくらいなのです。放ったらかしにしておいて最終溝を何度もトレスするという針の消耗を恐れているのではありません、もはや。兎に角このレコード、いったん聴き始めてしまったのだからこの面最後まで聞かなきゃならん、のです。そして最終溝までいったらなる早で針を上げなきゃならん、のです。
こうなって来ると面倒くさいのが、あと何分で家を出なければ待ち合わせに間に合わん、等の時です。駅に○時○分だから、○分までに家を出なければ!それまでにこの長ったらしいフェイドアウト、あと1分で終わるか2分か!嗚呼!針が最後まで溝をトレスしてから家を出られるかどうか!!!といった、緊迫した毎日を過ごしております。
緊迫ついででいえばもうひとつ、このレコードを最後まで聴き終えるまではWCに行く事は固く禁じられているのです。
そういった感じで、この “レコード段取り” が上手く決まった時は気分が爽快で、反対にB面最終曲1分残しで家を出た時などは、飛び乗った電車が目的地に到着するまでの間、ずっと独り言をブツブツ言っている立派な不審者がそこに居るのです。
K氏、私はここまで音楽に左右されて生きています。