019.持病と因果な音楽趣味 その2~オプトロンという蛍光灯ノイズを聴いた事があるかい

<※今回紹介する音盤のインナーも拡げて配置すると、又もや偏頭痛っぽいイメージになりました>

かなりのブランクが空いてしまいました。決して偏頭痛が再発した訳ではありませんので。K氏、今回はちょっくら昔の話から始めます。第15回で少し予告しましたが。

 


 

確か大学の4年生の時だったと思います。2学年下の知り合いの女性—つまり後輩なのですが、その彼女が今の言葉でいう “萌え” 対象のカッコイイ同級生がいる事を、わたくしに告解しました。

以降、彼女は会う度にその対象となった人物「伊東サマ♡」の話を、私に得々とするのです。明けても暮れても「伊東サマ♡」「伊東サマ♡」「伊東サマ♡」とまるで針飛びレコードの如し。

或る日「イトウちゃんって、子供っぽい字を書くんだよね~」と、妙に神妙な面持ちで嘆くのです。おそらくは同じ授業でも受講していて、そのノートの文字を横目でチラ見でもしたのでしょう。しかし子供っぽい字だと何で彼女が嘆くのか、、、おっと!乙女心を解せぬヤボテンにならぬ様、気を付けねば。しかし私が気になったのは「伊東サマ♡」→「イトウちゃん」という風に、微妙にディスカウントされている彼女のその呼び方なのでした。

更に後日、開口一番「いとちん!ってさあ、ああ見えて実はおしゃべりなんだって!」と、まるで学歴詐称が発覚したタレントを言及するかの如く手キビシイ口調で私にそう言うのです。んなもん本人の勝手だろうがと思いつつも、やっぱり気になったのはその呼称。「伊東サマ♡」→「イトウちゃん」と来て次は「いとちん!」です。遂にワゴンセールが。。。

しかし何だかんだで私もその「いとちん!」と在学中に交流を持ちまして、不確かな記憶ですが何かのライブに一緒に行ったような行かなかったような、、、どっちだったっけ?まあどっちでも良いのですが、月日は流れます———ぐんぐんと———10年以上———

上記後輩女性のかつての友人と雑誌を見ていました。おそらく美術寄りの雑誌だったと思います。その中で「伊東篤宏」なる人物の紹介記事と写真が掲載されていました、何故か蛍光灯を持って。その記事によると、かの人物は蛍光灯を使って音を出し最近あちこちで演奏を始めたとの事です。

「この人ってあの “いとちん!”じゃないの?」「う~ん。そういえば似てるような気もするけど」写真が掲載されてるとはいえ、ほとんど顔の判別がつかないようなアングルなのです。「イトウのトウは確か東だったよね?」「え~と、名前は何だったっけ、、、漢字二文字だった!」「ってそんな人一杯いるじゃん!」「割と難しい字だったような気がするけど、、、」といった「写真の伊東篤宏氏は “いとちん!” か否か」の問答を暫く続けた後、その人が「そう言えば “いとちん!” は日本画学科だった!だからやっぱりこの人、絶対に違うわ!」と、アバウトな割には自信満々の断言によって、強引に結論付けてしまったのです。不思議なものでそう言われると私も、やっぱり “いとちん!” とは違うかなと思ってしまいました。

更に月日は流れます———更にぐぐんと———やっぱり10年くらい———

とある人物の追悼の集いに出席しました。今から数年前の事です。会場の舞台に相当する場所で、故人に所縁のあった人達が次々と想い出を語っていきます。そしてその何人目かに見覚えのある顔が。あれは確か “いとちん!” なのでは。しかも蛍光灯をまるで楽器の様にして抱えています。追悼の言葉を発した後、おもむろに「◎◎☆☆※※※~~~!!!△△!$$$$♡♡!!###~~%%%%%%!!!!!」と、蛍光灯から全く表記不可能なサウンドを奏で始めるではないですか!近くに居たスタッフに「え~と、あの人は?」「伊東篤宏さんですよ」→ やっぱりそうでした!伊東篤宏氏の正体は “いとちん!” なのでした → しかも未だに全然カッコイイ! →  憎い!!!

舞台から降りた伊東篤宏氏と久々の再会。しかしこの驚異的な音、一体どうやって出してるの?「いやぁ、実はオレも良く解っていなくって、、、」との、事なのです。その時にもうすぐ始まる個展のDMをもらい、数日後その展示に早速押し掛け、更には蛍光灯による伊東篤宏氏の自作楽器 “オプトロン” を演奏するライブに行きました。

狭いライブハウスでの演奏が始まりました。う!かなりの大音量、偏頭痛の再発が心配。。。追悼の集いの時はかなり遠くから客頭越しに見ていたので気にならなかったのですが、この爆音に呼応するかの様に激しい点滅を繰り返す伊東氏自作楽器 “オプトロン” のこの光、ライブハウスに集うあっしら日陰者にはいささか眩し過ぎやしやせんか。。痛てっ、ヤバいかも!

ここで肝心の伊東氏のその音楽について、自分なりの説明を試みたいと思います。伊東氏の奏でる音、単なるぴぃとか、がぁとかといった、ただの喧しいノイズとは全く違うのです。80年代にも蛍光灯で音を出すミュージシャンはいましたが、その音を無理矢理表記すると「ツゥジィ~~~、づぃ~~、ティンてぃんテン、、、ティンてぃん、、、ツゥジィ~~~」といった感じのかなり実験的且つ静かな音で、メロディアスではありませんでした。しかし伊東氏が “オプトロン” を使って奏でる爆音は、何処かメロディアスなのです。

いや、メロディアスと言うのとも少し違うか。難しいです、この音を言葉で説明するのは。「何故だか泣きメロにも聴こえてしまう連続性のある単音の連なり」とか言ったら、もっと訳が解らなくなってしまうのでしょうか?私が伊東氏の音を聴いて連想したのは< キャバレー・ボルテール、ディス・ヒート、極初期DAF、スーサイド、クローム、初期SPK、フライング・リザーズ、初期タキシードムーン、ノイ!、再活動以降のファウスト >といった、70年代末から80年代初頭のインダストリアル/ノイズ系の幾多の音盤です。本人に確認した訳ではありませんが、おそらくかなり影響を受けているのではと推測します。

しかし、その影響だけではない音なのです。スイッチは蛍光灯に付帯するON/OFFボタンひとつ、それに多数のエフェクター類やら何やらが複雑に配線されているのが “オプトロン” です。なので、少なくとも楽器を用いて音を出す、上記インダストリアル/ノイズ系バンドの様に「一応メロディも弾ける楽器を使いましたが、あえてその様には使用しませんでした」という音とも違うのです。あくまでもイメージなのですが、常に流れている蛍光灯ヒス・ノイズをスイッチのON/OFFで寸断し、更にそのノイズの固まりをノミで彫刻しているような感触。そこに単音の連なりが有機的に絡み合い、その断面にメロディが垣間見えるのです。

、、、と、書いていて、自分でも訳の解らない説明になってしまいました。超難しい!これを読んで伊東氏の音楽に興味を持たれた方は、実際にライブに行くかCDを入手して下さい。わたくし現時点でCD2枚と、12インチ1枚しか入手していませんが、それを以下に記します。まだ他にも出ているみたいですが、わたくし相変わらずの検索嫌いなので後は各自。

 

◎『伊東篤宏/MIDNIGHT PHARMACIST』(’11年)
何と伊東氏が、ヒップ・ホップに挑戦!しかしそんじょそこらのヒップ・ホップではありません。“オプトロン” を使用していないトラックも3曲収録。2曲目「Black Pharmacy」ではヒップ・ホップらしからぬビートとサウンドにThe Leftyがラップ、これぞ驚愕の天才仕事!5曲目「JonKunnu」、10曲目「ilmu jahat」は聴いた事もないような奇妙なダンス・ミュージック。そして更にスゴイのはミックスというか、マスタリングというか、その録音なのです。音が手で掴めるような感触———スピーカーの前に座ると目の前50cmに音が立体物として出現し、もしも右手を伸ばしたならば確かにそれが掴めそうな気分を喚起させるのです。ホロフィニック録音、つまり立体録音なのだろうと思い、本人に聞いてみたところ「割とローテクな録音ですよ」との答え。一体どうなっているのでしょうかこの立体感?録音/ミックス/マスタリングのNOGUCHI TAORU氏の、これまた霊的天才仕事なのでしょう。

 

◉『伊東篤宏/Black Pharmacy』(12インチ・シングル/’11年)
そして上記アルバムの2曲目をA面に、10曲目をB面にして、アナログ盤でシングル・カット。両曲共アルバムとはバージョン違い。アナログならではの良音、CDの音質とは甲乙付け難し。割と長めの曲なので33回転で収録されていますが、45回転でカットしてみたらば溝が圧迫され、レコード自体のヒス・ノイズと絡まってイイ味を出したのでは。。。余計な事ですね、はい。

 

◎『Optrum / recorded 2』(’13年)
このブログの第15回でも紹介しました。一作目「recorded」は’06年にリリースとの事。伊東氏が “オプトロン”、進揚一郎氏がドラムの二人組ユニットです。上記『MIDNIGHT PHARMACIST』を聴いた後に「次は音の断片がたくさん収録された、DAFの1st(黄色いヤツ)みたいなアルバムが聴きたい~」と個人的に思ったのですが、正にドンピシャのそういったテイストを感じさせるアルバムです。壮絶かつ爽やかな音!ちなみにこのCD、新宿ディスク・ユニオン前で伊東氏にばったり遭遇、出来立ての本作を直接御本人から購入しました。伊東氏!CD屋店先の路上でCD売ってはいけません!

 

      ※         ※         ※

 

高音質を売りにしているSHM-CD、HQCD、K2HD、プラチナSHM、Blu-specCDといった、何やらよく解らないクセに値段だけ高いCDの煽り文句や、それを試聴した感想等に「まるで目の前で演奏しているかのような生々しい音に感動しました!」と書いてあるのを見ると何故かわたくしイラッとしてしまいます。だって、目の前で演奏されても困るじゃないですか!!!ってか、お宅アパート?マンション?賃貸?持ち家の一軒家?とカラミたくなってしまいます。

何でこんな事を書いたのかというと、この「目の前で演奏しているかのような生々しい音」と、上記の「音が手で掴めるような感触」というのは全く似て非なるモノだと思うからなのです。今回紹介した伊東氏の作品、それほど高額なオーディオでなくても、あるいは大音量で聴かずとも、かなり「音が手で掴めるような感触」が堪能出来るようなマジカルな録音がなされています。

ひょっとして伊東氏は “ノイズ界の宮五郎” なのではないでしょうか?宮史郎ではありません。史郎さんのお兄さんで、隣で泣きメロ・ギターを弾いている方です。伊東氏と私は同世代、おそらく同じ様な音楽を聴いて来た人間としての共感も多いにあるのですが。しかしブルースや演歌でもないのに、伊東氏の音には何処か泣きメロを感じてしまうのです。

 


 

さてここで話は本題の偏頭痛に戻ります。前回「偏頭痛を誘発する7つの条件」の3番目として『3.ライブハウスにも行けなくなります。これまた狭い会場や大音量系の場合、特にダメです』と書きましたが伊東氏のライブ、見事に「狭い会場」での「大音量系」なのです。時間が許す限りライブを観たいと思っているのですが、再発しそうな時はやっぱりどうしても。。。更にダメ押しのように、とにかく眩しいのです!そりゃ当たり前、だって蛍光灯なんだもん。。。「偏頭痛を誘発する7つの条件」には入れませんでしたが「点滅する眩しさ」も再発ノ恐レ有リです。

ではK氏、お待たせしました。K氏も伊東篤宏氏の音楽、機会があれば是非聴いてみて下さい、、、眠っているのですかK氏?流石に私の長話を聴いてると頭痛がして来ましたか?ならば前回と今回の偏頭痛音盤をじっくりとヘッドフォンで。さすれば偏頭痛理解まであと一歩!

そうやってこのブログを読んでくれている人を偏頭痛仲間にオルグ → やがて「頭痛の家」を組織  →そこから「群発頭痛青年協議会」が分派 → ややこしい何やらかんやらで「緊張性頭痛を守る会」も発足 → それらをひとつに統合し「偏頭痛会議」として旗揚げ → そして、その真の目的とは?

この恐るべき闇組織の実体に関しては新書本で出すのが相応しい内容かと。ここでこれ以上は無理。

さて、次回はついに待望の第20回!なるべく早くアップ出来れば。

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