K氏、それではお待たせしました。前々回冒頭の写真でチラッと登場した、待望のステレオ・ラジカセ編です。上記のサブ・タイトルを見て、ほう、貴殿も少しは “この辺の音” が解って来ましたか、という顔をなさりましたね、K氏。理解できましたよ、自分なりに。。。
さて前述した上記のブツ ↑ は7月7日に入手したので “七夕号” と命名しました、たった今。ハード・オフでジャンク品扱い、わずか324円で買った事も書きましたが、正直、稼働するかどうかはかなり怪しいと考えておりました。しかしダブル・カセットなので、どちらか片一方は音が出るのではないかと。そう思ってまずは外部のクリーニングを。かなりの汚れでした。続いて内部のヘッドやローラーのクリーニング。こちらもかなりの。
わたくし事ですが、実はステレオ・ラジカセというものを所有するのは初めてなのです。我が家で初めてラジカセを購入したのは1970年代前半で、その頃はモノラル・ラジカセ全盛時代で、小学生の私はそれで充分満足していました。高校生になった1980年代頃には、七夕号のようなスマートなステレオ・ラジカセが全盛で秘かに憧れていましたが、その頃実家には通販で買ってもらったステレオとは言えないような安い安いステレオ装置があったので、買えず仕舞いでした。
なので正直、ステレオ・ラジカセがどういう音を出すのかは、全くの未知数なのでした。
それでこの七夕号、機能の方はといいますと、
・カセット・テープはノーマル/クローム/メタルに、一応は対応している。
・TREBLE(高音)、BASS(低音)のツマミは無い。音質ツマミのみ。
・ドルビー機能は付帯されていない。
・ダビングスピードが、ノーマル/倍速の2段階。
・モード切り替えが、モノラル/ステレオ/アンビエンスの3種類。↓
といった感じですが、おそらく今後ダビングする事はないだろうし、TREBLEやBASSのツマミ、ドルビー機能が無くても、さほどの不自由はなさそうです。しかしモード切り替えの “アンビエンス” って、一体何?電話が掛かってきたりで一時的に音量を抑えるMUTE(ミュート)ボタンのようなもの?でもそれならば、ミュートという名称は当時からあっただろうし。。。
それとも、全ての音源をブライアン・イーノやエリック・サティやフィリップ・グラスにしてしまう、80年代に開発された恐るべき見栄っ張り機能?ありそうかも!
美大に通っていた1984~1987年頃に、デザイン学科や建築学科や芸術学科といった大学の中でも比較的おしゃれな学科の友人宅に遊びに行くと、かなりの高打率で “この辺の音” が、“うっすら” と流れていたものです。しかも “聴いても無視しても良い程度の微かな音量” で。
これ又わたくし事で大変恐縮なのですが、下心満載でこれらおしゃれ学科女子友人宅に1人で押し掛けると予想通り “この辺の音” が、“うっすら” と流れているのです。なので少しイヤな予感を感じつつ、しばし空気を読みつつ、下心を隠しつつ談笑の後、「あ、あのさぁ、、、」と話しを切り出そうとした瞬間、「う~、うにょり~ン」とか「びぃ~ビ~、みよわうわうわうぅ、びよわう~」といった、文字表記不可能サウンドに “ここら辺の音” が大きく変調。アンビエンス・モード、いきなり豹変。結句、見事に間合いを外され何ひとつ切り出せずに地味なる玉砕を。
微細な超音波を出して虫を追い払う、農業従事者らが腰にぶら下げがちなアレによって、見事に駆逐された蚊あるいは蠅の如くひとり夜道を歩いて帰ったものでした。
しかし、これらおしゃれ学科友人宅のカセット収納ケースの一番目立たない奥に息を殺して潜む、千春やまさしや剛(長髪期)や永吉等のカセット群を私は見逃しませんでした。昔のアングラ詩人ならば「餓えた乳飲み児が腐敗した母親の乳房を欲しがるが如く漆黒の魂が夜な夜な叫び声をあげている!」とでも、その濁った目をらんらんと見開きながら形容してくれそうな不憫なるカセット群です。
モード切り替えで “アンビエンス” を選び、これら不憫カセットがイーノやサティになるならば、上京と共に過去を隠蔽する為の弛まぬ努力を続けて来た、彼ら彼女らも報われようというものです。
あるいは、私が押し掛けた女子友人宅のラジカセにはこのアンビエンス・モードが付帯しており、先刻まで剛(長髪期)を聴いていたのですが、来客により慌てて “アンビエンス” に切り替えその場をやり過ごそうとしたまでは良かったのですが、80年代美大生のスカした雰囲気にさすがの剛(カセット内)も辟易とし、イーノもサティエリもろくなもんじゃねえとばかりに、怒りの変調をしたのかもしれません。でも流石、わたしの首領!あくまでも解決法は唐突&暴力的です。
———おっとK氏、シド&ナンシーや剛&真子の話ではありませんでした!大体、古すぎです。寄り道してる場合ではありません。モード切り替えの “アンビエンス” って、一体何?の話しでした。
さてそれで、無事クリーニングも終わり、向って左側の『1』と表記してある方にカセットを。少しドキドキしながら再生ボタンをON!電源が入りピンチローラーの回転音がうっすらと。さて!さて、さて、、、、、、、、、、えっ!え、え、、、、、、ええ??———見事に!ウン!ともスン!とも言いません!
ピンチローラーは回転しているみたいですが、どうやら巻き取りが作動してないようです。下手な事をするとカセットが巻き込んだり、取り出せなくなりそうです。ジャンク品324円、覚悟は出来ていましたが。
なので気を取り直し、向って右側の『2』の表記のある方にカセットを。そして再生ボタンON!カセット・テープ冒頭の無音部をスルスルと無事クリアして———遂に!待望の!見事な!←ステレオ→のラジカセ・サウンドが!!!!!!
左右両方のスピーカーから飛び出して来た予想以上のクリアーな音に驚きました。ヘッドもかなり消耗していたし、前々回に書いた815号機のように、ゴムベルトが伸びて回転速度が落ちている事も想定していました。しかし、両スピーカーから聴けるそれは、かなり正確なカセットの再生音なのです。この齢にしてステレオ・ラジカセ初体験のその音は、大学入学直後アパートでミニコンポを接続し、初めて音が出た時を上回る感動でした。ノイズも入らないし、テープ速度のムラも無いようです。音質やバランスや音量といったツマミ類も、早送り巻き戻し等ボタン類も正常に稼働しています。
ひとしきり感慨に耽った後、そういえば!と思い出し、モード切り替えレバーを大いなる謎の “アンビエンス” 位置に、スイッチON!そして飛び出して来た音はというと、、、、
☆貴方がスター歌手です!当店自慢の音響設備とプロ用マイク!ゴージャスな夜をあ・な・た・に☆———といった、先ほどの想像とは見事に真対極の、水商売的けばけばサウンドなのでした。
夜の蝶というよりむしろ蛾といった方がふさわしい、平時でさえ厚化粧のママのメイキャップ、本日は二割増し!という感じのこの音、セレクトしたカセットの ↓ くたびれ気味青江三奈が災いしたのか、北関東場末スナック感満載に。せわしく動く度に、鱗粉、ではなくファウンデーションの香りをぷんぷんとさせて「この国には政治屋はいるけど政治家はいないのよ!」ママお得意の政治論が聞こえて来そうです。ママ!この狭い店内ではなく、今こそ声をあげるべき時が来たのですが。。
< 1982年の微妙な時期のカセット◼️『青江三奈/BEST ONE』>
そうなのです、実は。“アンビエンス” というのは、特定の音楽ジャンルを指す言葉ではなく、音の広がりとか残響とか周囲の音に包まれる、といったニュアンスが本来の意味なのです。現在でもおそらくオーディオ用語としては定着しているのでしょうが、環境音楽やニュー・エイジ音楽などを指すアンビエンス系や、アンビエンス・テクノといった音楽用語が一般化された事によって、不覚にも言葉本来の意味を忘れていたのです、私は。
しかしこの七夕号の “アンビエンス” モード、青江三奈などのムード歌謡系に限らず、意外にもノイズ系や、古めのロック、或はライブ録音物にも新鮮な効力を発期してくれるのです。そこら辺の音楽ソフトについては次回ゆっくりと、という事で。
K氏、ああやっぱりと言いたげな、その冷ややかな視線。どうやら貴殿の期待したような “アンビエンス” の話とは、大幅に方向性が違ったみたいで。。。
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その必殺アンビエンスモードで再生したカセットを、ケーブルを使わず「しーっ!」と静かにしながら別のラジカセで録音、それをまたアンビエンスモードで再生し、同様に別のラジカセで録音…っての百回ぐらい繰り返して聴いてみたいですねえ。
ところで先日こんなのを購入しまして。なかなか"アンビエンス"を感じました^^
↓
V.A. / 直島ミュージックスタジオ作品集
http://metacompany.jp/shop/index.php?main_page=product_info&cPath=1_20&products_id=1003
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確かに!それを100回とは言わずも何回かくりかえしただけで、ぐわんぐわんとしたノイズ・アンビエンス・サウンドになるのかも!しかも最終的に完成したテープを、聴こえるか聴こえないかくらいの音量で!途中で何をやってんだろうと思いながら楽しみたいですね。
直島ミュージックスタジオは何かスゴそう。。。正にこういった音でアンビエンスを感じてみたいです!